先日、ある管理職の方からこんな相談を受けました。

「菅生さん、最近多様性とかよく言いますが、正直に言うと、多様性って面倒ですよね。一人ひとりの個性を活かすとか言いますけど、現場ではやるべきことが山積みなので、画一的に動いてもらった方が、マネジメントは圧倒的に楽なんですよ」

20年以上、中小企業の現場を見てきて、この本音は決して珍しいものではありません。

私自身も昔はそう感じていましたし、金太郎飴が生産性をあげるために重要な時代でしたので、当時を知る多くの管理職が心のどこかで感じていることではないでしょうか。

「画一化」の誘惑

現場を管理していると、やらなければならないことは多々あります。

納期短縮、品質アップ、コスト低減、トラブル対応。
日々の業務に追われる中で、一人ひとりの良さを考えて仕事を振る余裕などない、というのが正直なところでしょう。
苦手な仕事でもやってもらわないといけない。
自分と意見が違う部下がいると、いちいち説明するのが面倒。
だったら、みんなが同じように動いてくれた方が、マネジメントはずっとしやすい。
自分の言う通り動いてくれればそれでいい。
多様性なんて、正直いらない。
そう思っている方も、実は少なくないのです。

でも、また別の場面では、どうして言われたことしかやらないんだ、と憤りを感じることもあるようです。

この2つは矛盾することではありますが、私たちは人間ですので、そんな身勝手なことを思ったりするのです。
私も同じです。
この話はまた別の機会に譲るとして、今日は多様性は面倒だという話をしたいと思います。

変えられない事実と向き合う

ここで立ち止まって考えてみると。。。

「人はそれぞれ違う人間である」ということは、変えられない事実です。
誰1人として同じ人はいないのです。
ということは、思っていること、考えていることは違って当たり前です。

しかし。
同質を良しとするならば、違うことを「同じだ」と言わせる。
違うことを「同じだ」と思い込ませる。
という行為が必要になるのです。

なぜ言った通りにやらないのかとか、無意識に相手に意見を言わせない状況になっているなど。
それを、押し付けとか、同調圧力というのではないでしょうか。

あなた自身は、押し付けられたいですか?
同調圧力をかけられたいですか?
部下も同じです。

でも、上司の立場からすれば、自分が正しいから当たり前、なのです。
押し付けているとか、忖度させているとは思っていません。

「みんな違って大変だ」という現実

金子みすゞの詩に「みんなちがってみんないい」という言葉があります。
確かに個人レベルでは、その通りでしょう。

似たようなところもあるけれど、少しずつ違っているから
共感する部分がありながらも刺激を受け、この人と一緒にいると心地よいし、成長できる、なんて感じています。
絶妙なバランスで居心地の良さを感じられる環境を選んでいます。

でも、組織では、平田オリザさんが言うように「みんな違って大変だ」なんです。

組織としては多様性は大変さをもたらします。
個人は尊重されたい。
あなた自身も尊重されたい。
しかし、全く考え方の違う人を目の前にした時には、その人に共感できる部分が感じられなかったり、自分が正しくて、相手は正しくない、という敵対意識が働いてしまいます。

悪気はなく、単なる自己防衛反応が起こり、時に拒絶し、時に傷つけたりします。
友人関係と違い、多様性の中で仕事をせざるを得ないので、多様であることを受け入れざるを得ないのです。

だとしたら、組織としては、多様性ある中で、共に同じ目標に向かって協力し合う仲間だとすれば、多様性を認め、お互いを尊重し、対話をするしかありません。
押しつけや、忖度ではなく、お互いの違いを受け止め、会話を積み重ねることが解決する鍵です。

対話とは何か

対話とは、お互いがどんなことを思っているのか、ガチで話し合い、理解しようとするコミュニケーションです。
自分と相手の違うところはここで、ここは同じ。
人はそれぞれ違うということを前提に、
相手には相手の考えがあるのだと理解する。

「受け入れる」必要はありません。
しかし「受け止める」ことが大切なのです。
そのように話し合あえること。

これが、多様性を活かす組織の第一歩です。

画一化は楽だが、対話こそが組織を強くする

ある製造業の課長さんの話です。
当初、「部下には指示通り動いてほしい」と考えていました。
しかし、部下の一人が何度もミスを繰り返すことに悩んでいました。

私がお勧めしたのは、「なぜそのやり方を選んだのか」を聴くことでした。

すると、部下は本当は「こうしたら良いのに」と思っていたことがわかりました。
でも、言えなかったのです。
課長が話を聴く姿勢を持ち、関わることで、部下は意見を言いたくなりました。
そして、その意見の中には、現場を改善するヒントが隠れていました。

後日、課長はこう語ってくれました。
「部下が意見を言ってくれるようになったことが、本当に嬉しいんです。
今まで見えなかった現場の課題が見えるようになりました」

今日からの小さな一歩

多様性を活かすために、特別な制度やツールは必要ありません。

例えば、
・会議の目的は、「一人では解決できない問題をみんなで知恵を出し合い解決策を生み出すこと」と定義し直し、会議を進行する
と決めることはとても良い方法の1つです。

この小さな一歩が、対話の文化を生み出します。

あなたへの問い

画一化は確かに楽です。
でも、それで本当に組織は強くなるでしょうか。

多様性を面倒だと思う気持ちは、自然なことです。
でも、その先にある対話こそが、あなたの組織を本当に強くする鍵になるはずです。

(文:菅生としこ)


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