滞在中のニューヨークのホテルでの出来事です。
コンシェルジュは本当に親切で、しっかり話をきいて、的確な回答をくれます。
しかし、、、
ロビーの案内係は堂々とTikTokを見ている。
レセプションは、こちらが声をかけるまで同僚とトーク。
売店はレシートも出さず、支払額も分かりづらい。
4つ星ホテルでも、場所によってはこうした“ラフさ”を感じる場面があります。これが日本なら、お客様からクレーム電話が入ることもあるかもしれません。
日本のサービスは心地よいなぁと感じてしまいました。

でもここからが本題です。
日本は“サービスが丁寧”だからといって“生産性が高い”わけではありません。
対お客様へのサービスだけでなく、日本の現場は、気配りや確認、承認、マニュアル通りに作業といった“いい仕事”を積み上げることができます。
仕事の質を高めることは得意です。
だからこそ、お客様からの信頼が得られ、お互いに気持ちよく仕事をすることができている面もあるでしょう。
一方で、気配りや確認や丁寧な仕事は「どこまでやればOKか」の線が曖昧になり、手戻りや手待ちが膨らみます。丁寧さは強みですが、しかし“やりすぎ”が時間当たりの価値を削ることも確かです。“やりすぎ”はコストになります。
では、データで見てみたいと思います。
労働生産性(PPP調整のGDP/時間)で見ると、2023年の米国は97.7米ドルでG7首位、日本は56.8米ドルでOECD29位、G7では1970年以降最下位が続いています。ここでの数値は賃金ではなく、付加価値ベースの“生産性”です。
差を分けるカギの一つが、TFP(多要素生産性)です。
生産性は成長会計の考え方では、おおまかに「資本(設備)」「労働(人・時間)」「TFP(技術・組織・制度など“やり方の質”を含む残差)」に分解され、国・時期によりばらつきはあるものの、多くの先進国でTFPの寄与も大きいことが示されています。
イメージで言えば、資本(設備)=キッチン、労働(人)=シェフ、TFP=レシピと厨房オペレーション。
同じ人数・同じ機材でも、段取りとレシピ次第で、速く・ムダなく・おいしい料理が出ます。プロセス設計、デジタル化、現場裁量と権限設計、知見の移転が良ければ、出力(付加価値)は増えます。これが“やり方”の差です。
参考:nippon.comJapan Wire by KYODO NEWS
*OECD(経済協力開発機構)とは、世界経済の発展と国際協力を推進する重要な国際機関。世界最大のシンクタンクを言われている。
シンプルに“OKを決めよう”
余計なサービスやルールを一気にやめる・変える必要はありません。
いきなりそれらを行うと、意図を誤って受け取られる可能性もあり、社内の不満や、お客様からの不信を招きかねません。
では何からすればよいかというと、「何が・どこまで・いつまでにできていたらOKか」を決めることです。
「当たり前のことじゃないの?」と思った方もいるでしょう。
確かに当たり前のことではあるのですが、現場を拝見すると、決めているようで決まっていない、決めているのに共有・理解されていない、という状態が少なくありません。
当たり前を当たり前に行うことが難しいのです。
この「完了の定義」が社内で共有されれば、手待ち・やり直し・過剰品質や確認ループなどが減り、工数当たりの付加価値や処理能力・生産性(スループット)が上がります。ここで高まるのは、マクロ統計としてのTFPそのものではなく、企業の実務生産性です。
こうした現場の積み上げが、長期的には組織の「やり方の質」を押し上げるー私はこの取り組みを「組織のOSを整える」と呼んでいます。
OKの決め方(チェック項目)
- 成果の定義:アウトプットの姿・判断基準(例:完成条件、受入条件)
- 品質の幅:最低合格ラインと“やりすぎ禁止”ライン
- 時間の枠:標準所要時間とタイムボックス
- やらないこと:付随作業・過剰サービスの除外リスト
- 誰がOKを出すか:承認者とタイミング(中間OKも規定)
- 測り方:完了チェック項目と可視化方法
“サービスの質”は落とさず、“生産性”を上げる鍵は、丁寧さの上限(やりすぎ禁止ライン)と「OKの定義」をセットで設計することにあります。まずは、あなたの現場の“OK”を、今日から具体化してみてください。
(文・菅生としこ)